黒き艦娘、闇艦娘との闘いの火蓋が切って落とされる!
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【艦これ】艦隊これくしょん・闇 激戦!深海の亡霊、闇艦娘との闘い
第2章:二艦合魂、雷電!



 母港――
 海を目の前にして出撃を控えている第一艦隊。

『さぁってとぉ、レベル上げの旅に出発しますかねぇ~』

 深い緑色の制服を着ている北上は、ンーッと伸びをしながら言った。
 第一艦隊の旗艦である北上は、緊張感の無い間の抜けた声を海に向かって漏らす。

『そういうことを堂々と言うな。これは深海棲艦殲滅のための重要な戦いなのだ』

 俺は手を後ろ手に組んだまま、きつく北上を見つめる。
 第一艦隊である艦娘達の声は、俺の頭の中に流れ込んでくる。
 詳しい理屈はわからないが、科学者が言うには、俺と旗艦の艦娘とはテレパシーというもので繋がっているらしい。
 そして旗艦の艦娘がアンテナ代わりとなって、艦隊の他の艦娘とも会話が可能なのだ。
 ちなみに、いま艦娘達と一緒にいる俺は、実は俺の実体ではない。
 ここにいる俺は魂のような存在で、一種の幽体離脱のような現象が起きているらしい。
 俺の本体は司令官室の椅子に座っている。

『そういうことにしときましょーかねー。可愛い子ちゃん達の前だしねー』

 北上はジト目になって、第六駆逐隊である暁、響、雷、電を見つめる。
 そんな北上を見て、陸奥はポコンと頭を叩いた。

『いったぁーい! 痛いじゃないのぉ!』

『そういうこと言わないって提督が言ってるでしょ? 駆逐ちゃんのレベル上げだって重要なのよ?』

『はーい、ごめんなさーい』

 北上は怨みがましい涙目になって暁型四姉妹を睨む。
 そしてポソッとつぶやく。

『駆逐艦、あぁ、ウザイ』

 陸奥は溜息をついて北上を見下ろす。

『あ、そうそう陸奥のアネゴぉ。悪いッスねー、アネゴを差し置いて旗艦なんてやらせてもらちゃって。提督がどうしてもアタシをハイパーさんにしたいみたいでぇ~』

『別に気にしてなんかいないわよ? 私を改造するよりも、あなたをハイパーにする方が優先なんでしょ? 私もその方がいいと思うわ』

 北上はニシシと意地悪な笑みを浮かべながら、陸奥のくびれた腰を肘でつんつんする。

『本当は怒ってます? 怒ってますよね? もしかしたらあの子たちのお守りさせられて怒ってます?』

 陸奥はポコンと北上の頭を叩いた。

『私にしてみれば、あなたも駆逐ちゃん達も一緒よ。お守りだって言うなら、私はあなたを含めて5人のお守りをさせられているのよ?』

『はーい、ごめんなさーい』

 北上はまた涙目になって暁型四姉妹を睨む。
 そしてポソッとつぶやく。

『駆逐艦、あぁ、ウザイ』

 陸奥はやれやれと溜息をついて北上を見下ろす。

『駆逐艦なんて適当な遠征に出しまくって、地味ぃにレベリングすればいいのに。あいつら地球に優しい低燃費エコ娘なんだからさぁ、おつかい要員で十分だっての』

 北上は陸奥からこそこそと離れ歩き、陸奥に聞こえないようにポソッとつぶやく。
 陸奥から離れていく北上は、小さなビニールの包みを踏んずけてズルッとなる。
 そして思いきりお尻から地面に着地してしまい、北上は臀部を激しく打ちつけてしまう。

『いったぁーい! 痛いじゃないのぉ!』

 雷はロリポップキャンディを口の中で転がしながら、悪いとばかりに手を上げる。

『悪りぃね、北上のねーちゃん。ゴミはきちんと拾わないとなぁ』

 電はビニールの包みを拾い上げ、北上に向かってヘッと意地悪く鼻で笑った。

『むかーーーーーッ! なんなのアイツ! 私が何したってのよぉ!』

 お尻をさすさすしている北上を、陸奥はやれやれな顔をして見下ろす。

『自業自得。自分で捲いた種。因果応報』

 図星な北上は何も言い返せない。
 北上は怨みがましい目で雷を睨みつける。

『雷、あいつ性格最悪! ってゆーか、雷ってあんな感じだったっけ? どっちかっていうと世話焼き女房なイメージがあるんだけど』

『ああ、雷ちゃんね……あの子はしょうがないのよ、あんなことがあったんだもの』

『へ? あんなこと?』

 不思議そうに陸奥を見上げる北上。
 一部始終を見ていた提督は、溜息をつきながら北上に言う。

『北上、さっさと出撃せんからそういう目に遭うんだ。はやいとこ出撃しろ』

 北上はほっぺたを膨らませながら、俺に向かって敬礼する。

『出撃します。水雷戦隊、出るよ』

 北上は海に向かって飛び込む。
 後を追うように他の艦娘達も海に飛び込む。
 艦娘達はふわりと海上に降り立ち、まるで地面の上に立つように海上に立っている。
 そして俺は艦娘達の頭上で仁王立ちになって浮いている。

 艦娘――
 軍艦の魂を抱きし武装乙女、と俺は聞かされている。
 艦娘は存在自体が極秘中の極秘なので、艦娘の提督である俺にすら情報はほとんど入っていない。
 艦娘達が言うには、軍艦の魂が艦娘に憑依し、軍艦と同じスペックの能力を得ることができるそうだ。
 これを艦娘達は憑着と呼んでいる。
 身体の内に秘めたる軍艦の魂は、艦娘を戦闘へと駆り立て、そして戦地へ赴かせる。
 全員ではないが、艦娘には軍艦の記憶が断片的に残っていることがあるらしい。
 なぜ軍艦の魂がうら若き少女達に憑依しているのかは謎である。
 艦娘自身、自分が何者なのか理解してはいない。

“すざざざぁぁぁッ”

 艦娘達は海上を滑るように海を進んでいく。
 まるでアイススケートのように優雅に海上を滑っていく。
 軍艦の魂を抱いている彼女達にとって、海は大地と変わらない存在なのだろう。

『さぁてとぉ、ここらで索敵といきますかぁ。陸奥のアネゴぉ、やっちゃってください~』

 21号対空電探を搭載している陸奥がいるので、索敵はほぼ間違いなく成功する。
 陸奥の背後に電探が映し出され、くるくると回って索敵を開始する。

『なに? 何か来るわ!?』

 何かに気がついた陸奥は上を向くと、そこには恐ろしい速さで突進してくる艦娘がいた。
 真っ黒な衣装に身を包んでいる艦娘は、突進しながら砲撃の用意をする。

『くっ、何なのこの子ッ』

 回避が間に合わないと判断した陸奥は両腕をクロスして上半身を隠し、内股になって腰を屈めることで下半身をブロックする。

“ずどがぁぁぁんッ”

『きゃああッ』

 突然、陸奥の真下で爆発が起こる。
 黒い艦娘は陸奥に突進する前から22インチ魚雷後期型を発射していた。
 魚雷が直撃した陸奥は中破し、じゅばばぁッと海上を滑り飛ばされる。

『ちょ、な、なんなのこれぇ?!』

 予想だにしていなかった不意打ちに混乱する北上は、何もできずに棒立ちになっている。
 そんな格好の的となっている北上に、黒い艦娘は砲撃を開始する。

“ぎゅどごぉぉッ”

『きゃわぅッ』

 5インチ連装砲の直撃を受けた北上は大破し、海上に倒れ込む。

『重雷装巡洋艦は強いと聞いていたのだが……たいしたことないな』

 黒い艦娘の声が頭の中に流れてくる。
 艦娘同様、黒い艦娘もテレパシーを使って会話してくる。

『あの子……響ちゃん?』

 海上で這いつくばっている陸奥は震える腕で身を起こしながら、黒い艦娘を見つめる。
 真っ黒い衣装に身を包んでいるのは、どう見ても響である。
 しかし左目の瞳は鮮血のように深い赤で染まっている。

『響・黒だよ。レベルは2。ここには散歩で立ち寄ったよ。よろしく』

 黒と聞いて、陸奥はハッとする。
 先日、自らを闇艦娘と呼ぶ謎の艦娘に提督が襲われた。
 そのとき現れた五十鈴・黒は、たったひとりで戦艦と正規空母率いる艦隊に打ち勝ってしまった。
 更にその後に現れた愛宕・黒は五十鈴・黒以上の桁外れな強さを誇ったという。

『あれが闇艦娘? ほ、本当に強いじゃない……レベル2? あの子、どう考えても重巡級……いいえ、戦艦級のポテンシャルを秘めてるわ……』

 敵わない、本気でそう思えた。
 世界のビッグ7、その一艦である陸奥にとって、駆逐艦に敗北を喫するのは屈辱である。
 しかし実力者であるからこそわかる。
 目の前にいる闇艦娘、響・黒はここにいる誰よりも強い。

『撤退……撤退しなきゃ……』

 陸奥がそう思った矢先、陸奥の背後から暁と響が飛び出した。
 響・黒に同時攻撃を仕掛ける暁と響。

『よしなさい! あなた達じゃ無理よッ!』

 制止する陸奥の声が聞こえていなかのように、暁と響は鋭く響・黒に突進する。
 暁は響・黒に向かって飛び上がり、手にしている12.7センチ連装砲を構えて響・黒に狙いを定める。

『攻撃するからね』

 響は海上を滑りながら61cm五連装(酸素)魚雷を放つ。

『さて、やりますか』

 響・黒はゆっくりとした動きで両腕を開き、静かに目を閉じた。
 そして真っ向から暁と響の攻撃を受ける。

“ガスッ”

 海面から姿を現し、響・黒に向かって次々と飛んでくる61cm五連装(酸素)魚雷を、響・黒は涼しい顔をしたまま蹴り上げる。
 更に身を回転させ、蹴り上げた61cm五連装(酸素)魚雷に回し蹴りを喰らわす。

『え? きゃあっ!』

 魚雷は飛び上がっている暁に向かって蹴り放たれ、暁は避けることができず、魚雷をまともに受けてしまう。

“ずどぉががぁぁんッ”

 暁は大爆発に巻き込まれ、大きく吹き飛ばされた。

『暁ねぇさんッ』

 吹き飛ばされた暁を心配そうに見つめる響。
 その背後には響・黒がいる。

『姉の心配より自分の心配をしたほうがいいよ』

 響・黒は数センチと離れていない至近距離から5インチ連装砲を放った。

『うぁぅッ』

 響は大きく吹き飛ばされ、海上に倒れている暁の真横に倒れ込む。
 大破してしまった暁と響は気を失い、ぴくりとも動かない。
 真っ黒い煙を上げながら二人は眠るように海上で倒れている。

『防御を捨て、目まで閉じたのに……まるで相手にならない……これが私のオリジナルだと思うと泣けてくるよ』

 寄り添うように倒れている暁と響に、響・黒は5インチ連装砲を向ける。

『戦いに敗れし者は海に沈む……艦娘ならこれほど誇り高き死はない……散るといいよ』

 響・黒の背後に禍々しい5インチ連装砲の姿が映し出される。
 そして5インチ連装砲から砲弾が放たれる……直前に、雷と電が響・黒に向かって砲撃する。

“ずどぉががぁぁッ”

 雷と電による12.7センチ連装砲の同時斉射が響・黒に直撃する。
 しかし響・黒はダメージを受けることなく、何事も無かったかのようにその場に立っている。

『直撃してもこの程度……もはや涙も出ないよ』

 響・黒は海上に倒れている暁の頭を、ゴリぃと踏みつけにする。

『このまま頭を踏み潰してしまおうか』

 ブツンッという音と共に雷と電は飛び出した。
 踏みつけにされた姉を見て、雷と電は完全にキレた。

『お姉ちゃん達を沈ませないのですッ!』

『私らがお前を沈めてやるよぉッ!』

 突っ込んでくる雷と電を見て、響・黒は呆れ顔になって溜息をついた。

『バカだな、姉たちがやられたのを見ていなかったのか?』

 響・黒の背後に禍々しい5インチ連装砲の姿が映し出された。
 雷と電の背後には12.7センチ連装砲の姿が映し出される。

“ずががががぁぁぁッ”

 雷と電が放った砲弾を響・黒は瞬間的にキャッチし、手で掴み上げた。
 響・黒の手の中で砲弾がぎゅぎゅると回転している。

『効かないとわかっていても尚、攻撃を仕掛ける……イチルの望みに賭けて……でも、そもそもイチルも望みなんてなかったんだよ』

 響・黒は手の中で回っている砲弾を握り潰した。
 ぞどどぉぉッと響・黒の手の中で砲弾は爆発し、激しい轟音と共に爆風が吹き荒れる。
 一方、響・黒が放った5インチ連装砲の砲弾は雷と電に直撃し、二人はその勢いで吹き飛ばされた。
 そして空中で雷と電はぶつかり合い、まるで抱き合うように身が重なる。

『大破して尚、身を寄せ合う……ずいぶんと仲がいいんだね』

 宙を舞っている雷と電に狙いを定める響・黒。
 そして響・黒の背後に禍々しい5インチ連装砲の姿が映し出される。

『やめてぇッ! これ以上砲撃を受けたら、本当に沈んじゃうッ!』

 海上に倒れ込んでいる陸奥は、雷と電に向かって手を伸ばす。
 予想以上にダメージを受けた陸奥は、身体の自由が利かない。
 助けたいのに助けられない……自分の不甲斐無さに心を痛めつつ、陸奥は響・黒に雷と電がやられるのをただただ見ていることしかできない。

『心配しなくともこいつらを沈めたら、次はお前を沈めてあげる。海の底で仲良く朽ちていくがいいよ』

“ずどごぉぉぉッ”

 響・黒が放った砲弾は雷と電に直撃し、大爆発を起こした。
 雷と電は爆発による煙に包まれ、姿が見えなくなる。

『さて、次はお前だ』

 響・黒は陸奥に近づき、陸奥の額に5インチ連装砲の砲口を押しつける。
 万事休す……そう思った刹那、上空でカァッと閃光がほとばしった。

『ッ!? なんだ?』

 響・黒が顔を上に向けたのと同時に、響・黒は頬に鈍い痛みを感じ、激しい衝撃に襲われた。
 そして響・黒は吹き飛ばされる。

『ッつぅ……誰だお前は? 私を殴ったのはお前か?』

 響・黒は殴られた頬を手の甲で拭いながら、ペッと赤い唾を吐き捨てた。

『うそ……これって……』

 陸奥は信じられないという顔をして、突如現れた謎の艦娘を見つめる。
 謎の艦娘は雷と電が来ていたセーラー服と同じものを着ている。
 顔の見た目も雷と電にそっくりだが、雷と電とは別人であるとわかる雰囲気を漂わせている。
 全身がほのかに黄色く輝いていて、時折、電気のような稲光がパリッと身体の表面を流れ走る。
 髪は全身を流れている電気のせいか、まるで風に持ち上げられているようになびいている。

『もしかして……あなた、雷ちゃんと電ちゃんなの?』

 謎の艦娘は陸奥の方に振り返りもせずに、言葉だけで返答する。

『私は雷電。二艦合魂によって、雷と電のふたつの魂がひとつになった姿』

『二艦合魂!? そんなの初めて聞いたわ? ふたりが合体したってこと? そんなの信じられないわ……』

 陸奥は目を丸くして雷電を見つめている。
 これまでに艦娘同士が合体したなどという話は聞いたことがない。

『私も初めて聞いたな。二艦合魂? これはとても興味深いよ』

 響・黒は今まで以上の速さで雷電に突進した。
 雷電の只ならぬ気配を察知し、響・黒は本気になった。

『喰らいなよ』

 響・黒は雷電の目の前までくると、タンッとステップを踏んで雷電の真横に高速移動した。
 雷電の不意をつく形となった響・黒は、超至近距離から5インチ連装砲を発射する。

『遅いな』

 響・黒の目の前にいたはずの雷電が一瞬のうちに姿を消した。
 雷電を見失った響・黒はすぐさまその場から離れ、周囲を見回して雷電の姿を探す。

『ここだよ、ここ』

 響・黒の背後から雷電の声がする。
 響・黒はハッとして後ろを振り向くが、そこに雷電はいない。

『ここだってば』

 雷電はちょんちょんと後ろから響・黒の背中をつついた。
 雷電はずっと響・黒の動きにあわせて、ぴったりと背中にはりついていた。
 しかし響・黒は表情も変えずに、あくまで冷静に振舞う。
 響・黒は錨を手にし、股をくぐらせて背後にいる雷電めがけて錨を打ちつける。

“がずぅッ”

 錨は響・黒の背中に打ちつけられ、その衝撃で響・黒は前のめりになる。
 響・黒よりも一瞬早く、雷電は錨を避けていた。
 自爆した響・黒は前のめりになりつつも、その勢いを利用してグルンッと前転する。
 前転している間に雷電の姿を視認した響・黒は、シュタンッと立ち上がるのと同時に雷電に向かって砲撃する。

“ずががががぁぁぁッ”

 響・黒が放った真っ黒い砲弾を雷電が掴み上げる。
 砲弾は雷電の手の中でぎゅぎゅると回転している。

『そもそもイチルも望みなんてなかったんだよ……さっきあなたが言った言葉、この弾と共に全部返すね』

 雷電は手の中で回っている砲弾を握り、回転を止めた。
 しゅううぅッと手の平から白煙を上げなら、雷電は発射されたばかりで高熱を帯びている砲弾を響・黒に投げつけた。

“ぞどどぉぉッ”

 超高速移動が可能な響・黒ではあるが、雷電の放った砲弾は避けることができなかった。
 響・黒よりも雷電の方が数段速い。
 砲弾が直撃した響・黒は爆発に巻き込まれ、海上に投げ出される。

『くッ……たった一撃でこうなるのか……恐ろしい奴だな、お前』

 響・黒は大破寸前であった。
 ただ単に砲撃を受けただけならほとんどダメージを受けることもないのだが、雷電が投げつけた砲弾は、砲弾がひしゃげてしまうほどに速く、恐ろしく鋭い勢いで飛んできた。
 砲弾の爆発と超々高速な衝撃が合わさり、まるで大口径の砲撃を受けたようなダメージが響・黒を襲った。
 響・黒は傷ついた身体をかばうように自らの身体を抱き締め、ふらふらになりながらもなんとか立っている。

『イチルの望みもないか……確かに私がお前に勝てる可能性はイチルも無いな……』

 響・黒の足元に渦が発生し、その中に響・黒が呑まれていく。

『雷電とか言ったかな。また会おうよ……』

 響・黒は姿を消した。
 辺りに静寂が走る。
 雷電はふぅッと気を失い、その場でくずおれてしまう。
 そしてパァツと光ると、雷電は元の雷と電に戻った。
 ふたりは力尽きたように、静かに寝息を立てながら眠っている。

『雷ちゃん、電ちゃん……いったい何が起きたというの?』

 やっと動けるまでに回復した陸奥は、よろよろとしながら右腕で雷と電を、左腕で暁と響を抱え上げる。

『あらあら、そういえばいたわね。うちの旗艦さん』

 両腕が塞がっている陸奥は寝転んでいる北上の身体の下に足を入れ込み、ひょいっと足を持ち上げる。
 北上は音も無く宙に浮かされ、陸奥の肩の上に乗っかった。

『提督、これから帰投します……あらあら、旗艦さんが気絶しちゃって連絡がつかないわ……』

 提督と繋がっている北上が気を失ったせいで、提督とのテレパシーが途切れてしまった。
 陸奥は溜息をつきながら、海上を歩いて母港を目指す。

 ――――――

 ――――

 ――

「提督、入りますね」

 陸奥は司令官室の扉をノックして中へと入る。
 俺は窓から海を見つめながら、背中越しで陸奥と話す。

「大丈夫なのか、陸奥」

「ええ、雷ちゃんと電ちゃんは修復が終わって、お部屋ですやすや寝てるわ。ドッグは今、暁ちゃんと響ちゃんが使ってる。北上ちゃんはドッグ待ち。お部屋でブーたれてるわ」

「いや、陸奥、お前は大丈夫なのか?」

 陸奥もまだ修復前で、中破した状態でこの場にいる。

「あらあら、心配してくれるの? 私は大丈夫よ? 優しいのね、提督は」

「からかうな、陸奥」

「それよりも提督、こっちを向いたら? もう見慣れてるでしょうに」

 中破した陸奥は衣装がぼろぼろとなり、不謹慎な言い方だが刺激的な見た目になっている。
 露出が異様に高い姿の艦娘を目にするのは、俺的にも彼女的にもよくないと俺は思っている。
 俺は背中を向けたまま陸奥に話しかける。

「陸奥……今日見たことは他言無用。お前自身、今日のことは無かったこととしてくれ」

「それって……深入りは大やけど、ってことかしら?」

「そういうことだ……」

 沈黙が流れる。
 重苦しい空気が司令官室中を満たす。

「実は俺自身も、上から釘を刺された……この件については詮索無用。記憶から消したまえ。とな」

「そうなんだ……それほどにヤバい件なんだね……まさか艦娘が合体するなんて……初めて見たわ」

「俺だって初めてだ。電話越しだったが、上の方々も動揺していたよ……」

 俺は手に持っている報告書に目を通す。

「雷電になったパラメータ値……数値的には、雷と電の値が単純に足し算した値になっている……これは脅威的なことだ……」

「確かにとんでもないことだけど……でも雷ちゃんと電ちゃんのパラメータ値を足し算しても、私の値には届かないわ……だけど、雷電は絶対に私よりも強いわよ? ……私が敵わなかった響・黒よりも強かったんだから、雷電は……」

「実際には数値以上のポテンシャルを秘めているってことだな……」

 再び沈黙が流れる。
 俺は帽子を目深にかぶり直し、陸奥の方を振り返る。

「この部屋を出たら今日のことはもう忘れてくれ……すまないな、陸奥」

「あらあら、ならお部屋から出ないで、ずっとここにいようかしら」

 陸奥は俺を挑発するように身をくねらせる。

「からかうな……俺はすることがあるんだ。すまないが席を外してくれ……」

「あらあら、フラれちゃったわね。じゃあドッグでも見てこようかしら」

 陸奥はひらひらと手を振りながらウィンクをし、司令官室をあとにする。
 俺は電話の受話器を手にし、ダイヤルを回す。
 この電話は上と繋がっている守秘回線で、上との連絡がとれる唯一の連絡手段である。

「お待たせしてすみませんでした。艦娘には秘密厳守と釘を刺しましたので、情報が漏れることはありません」

『そうか……闇艦娘との二度目の接触、そして艦娘の合身……こちらとしても初めての報告だ。この件に関しては君の記憶から消去したまえ。そして君は今までと同じように任務をこなしてくれたまえ……くれぐれも情報の漏えいには……』

「了解であります」

 プツンッと電話が切れる。
 俺は小さく溜息をついて受話器を置いた。

「てーとくぅ!」

 突然バタァンッと扉が開き、ビクッとなる俺。
 そして雷と電が俺に向かって跳びついてきた。

「雷、電、もういいのか?」

「もう大丈夫だよ、提督。すっかり元通りだ」

「ご心配お掛けしましたのです」

 いつもの無邪気なふたりだ。
 俺は安堵の息を漏らす。

「なあ、雷、電……ふたりは今日の出撃のこと……憶えてるか?」

 俺は恐る恐る聞いてみる。

「あー、あの響・黒って奴のことか? あいつすっげぇムカつく!」

「とても腹が立つのです」

「……それ以外には……憶えていないのか?」

 雷と電は顔を見合わせて言った。

「途中から記憶がないんだよな……響・黒の砲撃を受けて……多分、気絶しちゃったんだろうな」

「記憶がないのです」

 俺はホッとした。
 どうやら雷電になってからの記憶は残っていないらしい。

「さあ、提督、ドッグに行こうぜ」

「ドッグに行くのです」

 きょとんとなる俺。

「なんでだ? ドッグにはお前達だけで行ってこい」

「ダメだって。提督も一緒に見舞いに行くぞ」

「一緒にいくのです」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ! 男の俺がドッグに行くってのは、女風呂とか化粧室に男が行くようなものだぞ? 一緒に行けるわけないだろ?」

 雷と電は頭にハテナマークを浮かべている。

「なんでもいいから、一緒に行くぞー」

「行くのです」

「ちょ! だから! 男の俺は行ってはならない場所なんだ! 女の園だろ! 男子禁制だって!」

 雷と電はガッシと俺の腕を掴み、ずるずると引っ張ってドッグに向かう。

「つべこべ言わずに行く! 仮にも提督だろ! 少しは気を遣えって!」

「いや、雷、逆に気を遣ってるんだって! ちょ、ダメだって! 俺は行っちゃダメなんだって!」

「さっさと行くのです」

 ずるずる、ずるりと俺はドッグに向かって引きずられる。

「ちょっと待って! 司令官室が空いちゃうだろ! ダメだって! お願い、やめてぇぇぇぇぇぇ!」

 俺の悲痛で恥ずかしい悲鳴が廊下中に響き渡る。


(つづく)

目次はコチラ

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【艦これ】くちくズ
第05話 任務:まるゆよ、伊号潜水艦ズに負けるな!



 ここは某国、某県、某市、某港にある、とある鎮守府。
 この物語は艦娘と深海棲艦との凄まじいまでの激戦の記録……ではない。
 戦闘さえなければ、艦娘達も普通のお年頃な女の子。
 今日も提督と艦娘達によるほのぼのとした一日が始まる。

 母港から少し沖に出たところで、潜水艦達が自主訓練をしている。

「ごーや、潜りまーすッ」

 伊58は直進しながらスゥゥと角度をつけて潜水していく。
 他の伊号潜水艦も次々と潜水していく。
 海面に残っている伊401とまるゆ。

「まるゆちゃん、お先にどーぞー」

「そ、そうですか? じゃあ遠慮なく」

 伊401に促され、まるゆは潜水を開始する。

“とぷんッ”

 まるゆはその場で頭を沈めて、さかさまになる。

「んーッ、んんーッ」

 まるゆはじたばたしながらお尻を沈めて、今度は頭を上にする。

「んんんーッ、んうーッ」

 まるゆは更にじたばたして、また頭を下にしてさかさまになる。

「んんんぅーッ、ぅんんーッ」

 まるゆは激しくじたばたしながら、頭を上にする。
 こうしてまるゆは頭とお尻を交互に沈める動作を繰り返し、まるでシーソーのような動きをしながら徐々に沈んでいく。

「し、沈んでる?!」

 海中からまるゆを見ていた伊号潜水艦ズは、まるゆが溺れてると思った。
 海面からまるゆを見ていた伊401は、まるゆが沈没したと思った。
 じたばた暴れながら沈んでいくさまは、潜水というよりは沈没である。
 どうにかこうにか海中にいる伊号潜水艦ズの目の前まで沈んだまるゆは、伊号潜水艦ズに向かって爽やかな笑顔を見せる。

「まるゆ、潜水完了しました」

 伊号潜水艦ズはエエエッと驚いてまるゆに詰め寄る。

「まるゆちゃん、それって潜水じゃなくて、沈没じゃない?」

 伊168につっこまれ、笑顔をひきつらせるまるゆ。

「いえいえいえ、潜水です。立派に潜水ですよ?」

 海面にいた伊401がスゥっと潜水艦ズの元に近寄る。

「上から見てたけど、あれは……残念ながら沈没だね!」

 あっけらと言われてしまい、まるゆは涙目になって抗議する。

「そ、そんなことないです! れっきとした潜水です! “止まって沈む”、陸軍が誇る! 一歩先ゆく! 画期的な潜水法です!」

「陸軍が誇る、ねぇ」

 伊168はジト目になってまるゆを見つめる。

「一歩先ゆく、なのね? いひひっ」

 伊19は笑いをこらえて涙目になっている。

「画期的? でち」

 伊58はプフッと笑いながらまるゆを見つめる。
 あからさまにバカにされているまるゆは、ふるふると身を震わせながら涙目になって下を向いてしまう。

「そろそろ時間よ。母港に戻しましょう」

 伊8は上を向いて浮上する。

「はいはいでちー! 訓練おしまいでち!」

 他の潜水艦ズ達も伊8を追うように浮上する。

「まるゆちゃん、戻ろう」

 伊401はうなだれているまるゆの手を取り、浮上するように促す。

「あ、はい、そうですね」

 まるゆは目に溜まった涙を拭い、伊401に笑顔を向けた。
 母港に着いて海から上がった潜水艦ズは、あらかじめ用意しておいたバスタオルを手に取る。
 そして身体と頭を拭きながら庁舎に向かって歩きだした。

「そういえばまるゆちゃんってさぁ、装備スロットが存在しないって本当? それって戦闘可能なの?」

 伊168からの質問にムッとするまるゆは、少し強めの口調で答える。

「そ、それは! まるゆはレベル10を超えたので、ちゃんと雷撃できるです! 先制雷撃、雷撃、夜戦と3回雷撃できるのです! ……まだ装備スロットは開いていませんが」

「何も搭載してないのに、どうやって攻撃してるのでち?」

「いったい何を発射してるのね?」

「そ、それは! ……それは」

 言い返そうと思ったまるゆであったが、怒りよりも悲しい気持ちの方が勝ってしまい、何も言えなくなってしまった。
 そんな気の沈んだまるゆの気持ちを知ってか知らないでか、伊8はシレッと質問する。

「まるゆちゃんって確か、耐久力2でも中破なんでしょ? 耐久力1でやっと大破って、轟沈しちゃうよ?」

「やばっ! それって危ないじゃない!」

 まるゆの隣を歩いている伊401は、朗らかに笑みながらまるゆに質問する。

「そういえばまるゆちゃんって、超がつく低燃費艇なんだよね! 1戦闘あたり燃料2、弾薬1で済んじゃうエコ艇なんだよね?」

「まるゆちゃんは小食すぎるのでち。もしかして拒食症でち?」

 あはははははッと笑いだす潜水艦ズ。
 まるゆの隣にいる伊401はまるゆの肩をポンと叩く。

「もう少し食べないと大きくなれないよ、まるゆちゃん!」

 まるゆの胸がギュッとなる。
 ひどく悲しい気持にさせられた。
 きっと潜水艦ズには悪気などないのだろう。
 少しからかっているくらいの気持ちなのだろう。
 しかしまるゆにとってはコンプレックスなところを殴りつけられたようで、ひどく心が痛んだ。

「まるゆは海軍工廠出身じゃないから……お友達はできないのでしょうか……」

 まるゆはダッと走りだしてしまう。
 くやしい気持ちと悲しい気持ちが混じり合い、いたたまれなくなったまるゆはその場にいられなくなかった。

「あッ」

“ずざざぁぁッ”

 涙で前が見えなくってしまったまるゆは、何もないところで転んでしまう。
 地面に肘と膝を擦りつけてしまい、すれた箇所はうっすらと血が滲んでいる。

「えぅ、ぅええぇぇう……」

 まるゆはその場に座り込んでうなだれてしまう。
 自分はどうしようもなく低能で、まるで役に立たない、ヨソ者である……そんな負の気持ちがまるゆに襲いかかる。

「おいおい、そんなとこでなにしてんだよ」

 雷はロリポップキャンディを咥えながら、座り泣いているまるゆを見下ろしている。

「あ……雷さん……えぅぅ、うああぁぁぁんッ」

「おいおい、こんなとこで泣くなよ。怪我してるし、びちょびちょだし、風邪ひいちゃうぞ」

 雷の顔を見た途端に、まるゆの中で我慢していたものが崩れてしまい、激しい感情が溢れ出てしまう。

「うああああぁぁぁんッ! ぅええあああぅんッ!」

 大泣きしてしまうまるゆ。

「はぁ、しゃーねーなぁ」

 雷はポケットから新しいキャンディを取り出して、まるゆの口に突っ込む。

「んむぅッ、んぐぐぅ?」

 まるゆはきょとんとした顔をして雷を見上げる。

「ここじゃあなんだ。とりあえず私らんとこにおいで」

 ――――――

 ――――

 ――

 自室のベッドに腰を下ろしている雷は、まるゆから事の成行きを聞いた。
 そしてまるゆの傷に絆創膏を貼っている電は、まるゆの話を聞いて憤慨する。

「ひどいのです! まるゆちゃんが可哀相なのです! 人には得手不得手、長所短所があるのです!」

 雷は腕組みをしながら、目を閉じて身体を揺すっている。

「雷お姉ちゃんもそう思うのです?!」

 電に話をふられて、雷はゆっくりと目を開ける。

「このままってわけにはいかねぇか。しゃーねー、いっちょ話つけに行くかぁ」

 雷はぴょんとベッドから飛び降り、すたすたと部屋を出て行ってしまう。

「おいてくぞ、まるゆー」

「え? ええ?」

 どうしていいのかわからないでいるまるゆに、電は笑顔を向ける。

「雷お姉ちゃんにまかせるのです」

「あ……は、はいッ!」

 まるゆはハッとして雷を追いかける。

「なんだかんだで世話焼きなのです、雷お姉ちゃん」

 電はクスッと笑んでベッドの上に転がった。

 ――――――

 ――――

 ――

 海辺にある射撃場で魚雷の発射訓練を行っている潜水艦ズ。

「イクの魚雷攻撃、行きますなのね!」

“しゅるるるるぅ……ちゅどどぉんッ!”

 深海棲艦の絵が描かれた板に向かって魚雷を発射する伊19。
 板はこなごなに破壊され、跡形もない。

「イク、大金星なのね!」

 ドヤ顔になっている伊19、その横で次は私だと言わんばかりに魚雷の発射準備をする潜水艦ズ。

「打ち方やめー。潜水艦ズ、ちょっといいかぁ」

 発射寸前で呼び止められ、海の上でふらふらと身を揺らす潜水艦ズ。
 伊168は声がした方に顔を向けると、そこには雷と、その背後に隠れているまるゆを見つけた。

「いったい何の用かしら? 私達の訓練を中断するような用事なのかしら、くちくズの雷ちゃん」

 伊168はいぶかしげな顔をしながら海から上がる。

「わりぃね、たいした用事じゃないんだけどさぁ。ちっと集まってもらってもいいかなぁ」

 雷はポケットに両手を突っ込んだまま、ロリポップキャンディを口の中で転がしている。
 他の潜水艦ズも海から上がり、どこか高圧的な態度の雷を警戒しながら、雷の前に集まった。

「な、何の用でち? も、もしかしてまるゆちゃんの仕返しにきたでち?」

「んー? 仕返し? お前ら、まるゆに仕返しされるようなことしたのか?」

 伊58は“んぐぅ”と口ごもり、言葉を失ってしまう。

「なんだか煮え切りませんね。はっきりと要件を言ってもらえます?」

 伊8は人差し指でメガネを上下させて、にこっと雷に微笑む。

「潜水艦ズ、お前ら潜水艦は特殊かつレア度が高いから、提督に特別扱いされてるのはわかるよ」

「そうなのね! イクたち潜水艦は特別な存在なのね! だからこそ潜水艦としてのプライドというものがあるのね!」

 伊19は胸を張って大威張りに言う。

「だけどな、提督はお前ら以上に、まるゆを特別扱いしてんだよ」

 笑顔の伊8の頭にピキッと怒りマークが出現する。

「それは聞き捨てなりませんね。なぜまるゆちゃんが私たち伊号潜水艦よりも特別扱いされているのか、理由を話していただけます?」

 雷はガリッとキャンディを噛み、バリバリとキャンディを噛み砕く。

「理由? そんなの一目瞭然じゃんか。お前らとまるゆ、決定的に違うものがあるだろう?」

 潜水艦ズは頭の中をハテナだらけにして、自分とまゆるを何度も見比べている。

「違いなんて無いじゃない! どこが違うって言うのよ!」

 伊168はいらいらしながら声を荒げる。

「いちいち口で言わないとわからないんか?」

 雷は口に残ったキャンディの紙棒をプッと吐き飛ばした。

「いいか? お前らが着てる提督指定の水着はスク水だろ。だけどな、まるゆが着てるのは何だ?」

 伊401は場の空気を理解していないかのように、あっけらと元気に答える。

「白いスクール水着だね!」

「そうだ、白スクだ。一般的にはな、白スクは紺スクよりもレア度が高いんだよ」

 伊8の頭の中でズガーンッというショックな衝撃が走りぬけた。

「……レアカラーVerだと……そう言いたいのかしら?」

 雷は伊8に詰め寄り、ズイッと身を乗りだす。

「それだけじゃないよ。純白の白スクを見てさ、何か思い出さないか? 純白の服を着てるのがもうひとりいるだろう?」

 伊8はハッとし、がたがたと震えだした。
 もはやショックすぎて言葉が出ななくなった伊8。
 しかし雷の言葉が理解できないでいる他の潜水艦ズは、雷に詰め寄る。

「どういうことなの? それって誰よ! そんな艦娘、他にいたかしら?」

 雷はにぃッと笑い、潜水艦ズに言い放つ。

「提督だよ」

 ズガーンッというショックな衝撃が潜水艦ズの頭の中を走りぬけた。
 そんな潜水艦ズに雷は追い討ちをかける。

「提督とまるゆはな、ペアルックだ!」

“ずどがががぁぁぁんッ!”

 Critical hit!
 潜水艦ズは脳内で大破した。
 悲しみのあまり、轟沈寸前である。

“ずどがががぁぁぁんッ!”

 Critical hit!
 まるゆも脳内で大破した。
 嬉しさのあまり、轟沈寸前である。

「隊長さん……そ、そうだったのですねッ! まるゆは……まるゆはッ!」

 ――――――

 ――――

 ――

 司令官室の扉をこんこんと控えめにノックするまるゆ。

「開いている。入っていいぞ」

 提督に促され、まるゆはもじもじしながら司令官室に入った。

「し、失礼します……あ、あの、隊長さんひとりですか?」

「ああ、そうだが。どうしたんだ、まるゆ」

 まるゆは頬を赤らめながら、提督に身を寄せる。

「……隊長さん……ま、まるゆは……まるゆは……」

 まるゆは提督の顔を見上げながら、熱っぽい目で提督を見つめる。
 提督は只ならぬ雰囲気のまるゆを見て、どきどきと胸が高鳴る。

「隊長さん……」

 まるゆの顔が近づいてくる。
 とろけるような熱い目をしたまるゆが、顔を寄せてくる。

「まるゆ……」

 提督とまゆるの唇が接近し、そして遂に……

“ボフンッ”

 寸でのところで、まるゆは提督に包みを差し出した。
 提督は包みに顔が埋まってしまい、包みにキスしてしまう。

「これ、まるゆからのプレゼントですッ!」

 そう言ってまるゆはテテテッと司令官室を出て行ってしまう。

「……何どきどきしてんだよ、俺……バ、バカなのか俺は? そ、そんなことあるわけないだろうがよ……」

 提督は手渡された包みを開けてみる。

「ん? なんだこれは」

 提督は目の前で包みの中身を拡げてみる。
 それは腹の箇所に「○て」と書かれた白スクだった。

「……これを着ろと?」

 機能美に溢れるまるゆ指定の水着を手にしたまま、提督は固まってしまう。

 ――――――

 ――――

 ――

“コンコン”

「失礼します」

 秘書艦が戻ってきた。
 扉を開けると、そこには白クスを着込んだ提督がいた。

「違うんだ、そうじゃないんだ、なんて言えばいいのか、その、なんだ、まずは落ち着くところからはじめようか」

「んぎゃあああぁぁぁあああぁぁぁッ!」

“ずどがががぁぁぁんッ!”

 Critical hit!
 提督は大破した。

(任務達成?)

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【艦これ】艦これ軽音隊!あたしらの音を聞けぇぇえッ!


 朝――
 日の出の光に照らされてキラキラと輝いている海を見つめながら、天龍はンーッと伸びをする。
 まだ解放されていない第3ドッグの前で、天龍は人待ちをしている。
 海に向かって「フフフ、怖いか?」と言いそうな顔をしながら、天龍は落ち着かない様子で地面をタンタンと踏み叩いている。

「さぁて、今日もクールでホットで激烈ヘビーな一日が始まるぜぇ」

 天龍はたくさんのステッカーが貼られた真っ黒なソフトケースを背負いながら、他のメンバーが来るのを待っている。

「ふああぁぁぁぅッ、クールとホットが混ざったら常温になっちゃうわねー」

 海を眺めている天龍の背後から、龍田の眠たそうな声が聞こえてきた。
 龍田も天龍同様、たくさんのスッテカーが貼られた真っ白なソフトケースを背負っている。

「んもー、天龍ちゃんってば起こしてくれればいいのに。いっしょのお部屋で同棲してる仲じゃない」

「チッ、意味深っぽく言ってんじゃねーよ。姉妹なんだから当然だろうが、相部屋なんてよぉ。んなことより遅せぇよ。ずいぶんと待っちまったぜ」

 龍田は呆れた溜息をつきながら、やれやれな顔をする。

「天龍ちゃんが早すぎるんでしょ? まだ約束の時間まで30分もあるのよ? うふふ、天龍ちゃんったらはしゃいじゃって、かわいいんだから」

「ッ! バカなこと言ってんじゃねーよ! 何が可愛いだ、ふざけやがって」

 天龍は顔を赤くしながらギリッと歯を鳴らした。

「あらあら、もう来てるの? ずいぶん早いわねぇ」

 爽やかな笑顔を振りまきながら、そして立派すぎる大きなお胸を揺らしながら、愛宕が声をかけてきた。
 愛宕は衣装の色と同じ深い青色のスティックケースを背負いながら、天龍達と合流する。

「みなさん、もうお集まりなんですね。早く来たつもりだったのに、私が最後だなんて」

 榛名は小さめのリュックを肩に引っ掛けて、三人ににっこりと笑んで見せた。

「遅せぇぞ、お前ら」

 天龍は後から来た三人を見下ろすように睨みつけながら、不機嫌な声で言った。
 三人は『あんたが早いんでしょ』と言いたげな顔をして、生温かい笑みを天龍に向ける。

「なんだよ? 何か言いたそうだなぁ? 言いたいことがあんなら言えってんだ!」

 妙に喧嘩腰な天龍に、龍田は優しい笑みを浮かべながら静かに話す。

「天龍ちゃんってば、そんなにいきりたたないの。少しヒート気味よ? もっとクールになって」

「うっせぇな龍田! 俺はたぎってたぎって仕方ねぇんだよ! 艦隊の旗艦になって単縦陣でバトルするくらい、全開でたぎりまくりなん! ヒート気味だぁ? 何ぬるいこと言ってやがんだよ。俺はたぎりすぎちまって、メルトダウン寸前だぜ?!」

 興奮しきっている天龍を見て、榛名はクスッと笑んだ。

「さすがは天龍ちゃんですね。そのくらいハートがアップしてた方が、天龍ちゃんらしくて素敵です」

 榛名は天龍を見つめながら、背後に向かって鍵を投げる。
 完全なノールックで鍵を投げ上げた榛名。
 このノールックパスに愛宕が反応していた。
 開放前の第3ドッグの扉の前でスタンバッていた愛宕は、やはりノールックのままパシィッと鍵を受け止める。
 それを見た天龍は、嬉しそうな笑みを浮かべながらチッと舌打ちをする。

「なんだよ、榛名も愛宕も、冴えに冴えまくってんじゃねーかよ。俺よりも上がってんじゃねぇか? スピリッツがよぉ」

「それを言うならスピリットでしょう? スピリッツはお酒、または雑誌のお名前よぉ? っていうか、スピリットが上がるってどういう意味なのかしらぁ?」

 天龍は顔を真っ赤にして地団太を踏み、恨みがましい目で龍田を睨む。

「うッせぇぇぇなぁッ! いちいち揚げ足取ってんじゃねぇよ! いいんだよ意味なんてよぉ! ハートが伝わればよぉ、なんだっていいんだッ! 気持ちが伝わればよぉ、どうでもいいだろぉがぁ! 言い方なんてウワベなんか関係ねぇっつの! 熱い煮えたぎった気持ちが伝わればよぉ、言葉が意味不明だってノープレだぜ!」

「ノープレ? ノープロブレムって言いたいの? 天龍ちゃんってば、略し方が独特すぎて変だよぉ?」

「んがぁぁぁぁぁぁぁぁあああああッッッ!!! うっせぇッッッ!!! いちいちムカつくツッコミ入れんなぁぁぁッッッ!!!」

 キレる天龍。
 そしてキレた天龍をクスクスと笑みながら嬉しそうに眺める龍田。
 ブチギレ天龍はぶんぶんと拳を振りまくって襲いかかる。
 対してクールな龍田は全てのパンチをひょいひょいと軽快にかわしていく。
 さすがは姉妹である。
 龍田は天龍の呼吸を読みきり、放たれるパンチを完全に見きっている。
 これでは一生かかっても天龍は龍田を殴る事はできない。
 とはいえ、天龍もそれを理解しているからこそ、思いっきり龍田に殴りかかれるのでる。
 いくらブチギレていても、本当にぶっ叩こうなんて思ってはいない。
 なんとも仲のいい姉妹である。
 そんな軽巡姉妹を、愛宕は清々しい笑顔を浮かべながら見つめている。

「あらあら、息ぴったりね。まるでダンスを踊ってるみたい。あのふたりのシンクロしたリズムは、誰にもマネできないレベルで完成されてるわね」

「愛宕さん、あのふたりのリズムは完成なんてしていないわ。まだまだ未完成で発展途上、そして進化し続けているわ」

 愛宕は「そうね」とつぶきながらドッグの扉を開けた。

“ぐごごごごごごごぉッ”

 重苦しい重厚な音をたてながら、扉がゆっくりと開かれていく。
 まだ解放前のドッグは当然だが誰もおらず、ほとんど日の光が入らないせいもあり、中は真っ暗である。
 そんな真っ暗闇の中、愛宕は手慣れた感じで扉の横にあるスイッチをオンにする。
 ピカッ! と眩しいほどの光がドッグ内を照らす。
 するとドッグの真ん中に、スタジオさながらの音楽設備が姿をあらわした。
 ドラム、アンプ、スピーカー、などなど、演奏に必要な機材は全て揃っている。

「さぁってとぉ、ちゃっちゃと準備しちまってよぉ、さっさとおっぱじめよぉぜぇ」

 天龍はタタッと走ってアンプの前に立つ。
 そして背負っていたソフトケースを開ける。
 ケースの中からあらわれたのは、漆黒と言っていいほどに深い黒色のギター。
 なんとも存在感のあるギターが、天龍の手によって取り出される。
 天龍は素早くギターのストラップに身を通し、アンプとギターをケーブルで繋いだ。
 そしてアンプの電源スイッチをバチンッと弾く。

“ぎゅわぁぁぁぁん”

 天龍はピックで弦を弾いた。
 まだチューニング前なのだが、ギターによって奏でられた音には全くもって狂いがない。

「やっぱこいつは優秀だぜ。弾くの久しぶりなのに、チューニングしたばっかみたいだ。これなら微調整なしでもイケちまうぜ」

 天龍はギターを構えながら恍惚の笑みを浮かべ、満足げに語った。

「天龍ちゃんったら、前もってチューニングしなかったの? なんて、私も実はしてないんだけど」

 龍田は白いソフトケースを開け、中から眩しいくらいの純白のベースを取り出した。

“ぼぅぉぅぅぅうんッ”

 龍田がベースを鳴らした。
 やはりチューニングが不要なくらいに、音に狂いは全くない。

“バスンッ、ドンドンドンッ、シャラァアアンッ”

 愛宕もドラムを試打する。
 ドラムも調整不用なほどに正確な音を鳴らし、すぐさま演奏可能な状態であった。

「さすがは妖精さん達ねぇ、前回演奏してから結構経つのに、音がぜんぜんズレてないわ」

 愛宕はくるくるとスティックを回転させながら、鼻歌まじりにドラムを叩いている。

「妖精の奴らはよぉ、普段、艦を建造したり修復したりしってっかんなぁ。楽器を作るのなんて朝飯前なんだろうさ」

 天龍は器用に速弾きしながら、ノリノリでソロ演奏をしている。

「天龍ちゃん。楽器を作ってくれたのは家具職人さんよぉ?」

 龍田は意地悪く笑みながら、天龍の速弾きに合わせてベースを弾く。

「うっっっっっっっっせぇぇぇなぁぁぁぁぁぁッ! そうやって正論でツッコミ入れやがってよぉッ! 性格悪いにもほどがあんぞぉッ!」

 天龍は額に巨大怒りマークを出現させて、ビキビキという音が聞こえそうなほどの怒り顔になっている。
 そして凄まじいまでの勢いで龍田を睨みつける。

「だって天龍ちゃん、間違ったことを平気で言うんだもぉん。だから正しい捕捉を付け足してあげてるんじゃない」

「あーあーあーあーあーッ! どうせ俺の言ってることは間違ってるよぉッ! 間違いだらけだよぉッ! 間違いまくりの間違いキングだよぉッ!」

「天龍ちゃんは女の子だから、間違いキングじゃなくて間違いクイーンだよぉ?」

「んぐぅぁぁぁぁぁああああああああああああああああああッ!!!」

 天龍は龍田の正しいすぎるツッコミに完全にキレてしまった。
 ブチギレた天龍は、恐ろしいほどの速さでギターを弾き鳴らす。
 もはや弦を弾いているピックと指が見えないほどの速さで、弦を弾きまくる。

「んふふふふふッ、わたしだって負けないよぉ」

 龍田は天龍の神速度な速弾きに合わせて、ベースの弦を超高速で弾く。
 凄まじい速さで弦を弾いているせいで、龍田の指には残像が生じてしまっている。
 そのせいで、むしろゆっくり動いているように見えてしまっている。

「やるじゃねぇかよ、俺についてくるなんてよぉ」

「うふふふふ、姉妹艦は伊達じゃないのよぉ」

 ふたりのセッションはどこまでも加速していき、まるで人工的に加工した音のような、人が奏でていると考えられないほどの連続音になっている。
 このままでは人の耳には聞こえない超音波になってしまうかもしれない。

「本当に仲のいい姉妹ね。天龍ちゃんと龍田ちゃん」

「そうですね、愛宕さんと高雄さん姉妹とは違ったタイプの仲のよさですね」

 榛名はいそいそとキーボードや琴、その他の様々な楽器や機材をセッティングしている。
 実はここにある楽器や機材は、すべて榛名が設計したものである。
 榛名いわく、奏でたい音、演奏したい曲、そういったものを心の中で想い描いているうちに、必要となる楽器の設計図が頭の中に浮かんでくるのだそうだ。
 そうやって描かれた設計図は、家具職人に受け渡され、楽器を建造、もとい開発、もとい製作してもらうのである。
 そして家具職人さん達は言う、これは神がつくりし設計図だと。
 まったくもって無駄がなく、バランスがとれすぎていて怖いくらいだと言う。
 もしこの設計図が世に出て広まったら、音楽業界に革命が起こる! と家具職人さんは語る。
 そんな神の設計図を元にして作られた楽器や機材は、もはや芸術品ともいえる完成度で、究極かつ至高の名器である。
 値段をつけようにもつけられないほどの価値がある。
 だからだろうか、人の限界を超えた演奏をしても、楽器は壊れるどころかビクともしない。
 どんなに凄まじい速弾きをされても、ギターとベースは生真面目なほどに正確な音を奏で続けてくれる。

「榛名さん、今回の曲、すっごくいいですね。スリリングさと胸熱感が巧みに混在していて、気持ちが上がりまくりだよぉ」

「おう! 超俺好みだぜぇ! こういうの待ってたんだよなぁ。さすがは榛名だぜ、超アゲアゲのテンションMAX超えの120パーセントだぜ!」

「もう、天龍ちゃんったらバンドリーダーに向かって呼び捨ては失礼よぉ。でも気持ちはわかるなぁ。いままでの曲と比べて、勇気がすっごく湧いてくるもん。勇気だけが友達って感じで、すっごく頑張れるよぉ」

 榛名は「ありがとう」とひとこと言うと、静かに目を閉じた。
 すると、榛名の雰囲気が変わった。
 まるで静かに燃える青い炎のようである。
 内にとてつもないエネルギーを内在させているのが伝わってくる。
 そして榛名はゆっくりと目を開く。
 榛名は別人のようになっていた。
 触る者みな傷つけてしまうような、鋭すぎる日本刀のようである。
 そんな榛名を見て、愛宕はスティックを鳴らしながら、ワン、ツー、スリーと言い放つ。


 そして、演奏が始まった――


 四人は恐ろしいほどの気迫で音を奏で、人の限界を超えた超々テクニックを駆使して楽器を打ち鳴らす。
 まるで四人の魂が繋がっているかのような、ありえないほどの一体感で音が重なり合っている。
 素晴らしい!
 素晴らしすぎる!
 聞く者の胸を問答無用に熱くさせ、感動の渦潮に巻き込んでしまうような、人の心を掴んで離さない絶対的な魅力に溢れている。
 しかし、四人は決して納得しようとしない。
 完璧とも言える演奏をしているようにしか見えないだが、それでも妥協をいっさい許さない四人は、何度もトライアンドテストを繰り返し、更に高みを目指そうとする。


 もう何百、いや何千回演奏しただろうか――


 早朝から始まった演習、もとい演奏だが、外は完全に日が落ちている。
 しかし、それでも終わりが見えてこない。
 確実にいいものになっているのだが、それでも納得はしないし、妥協しようとはしない。
 よって、夜戦に突入!
 四人は間宮さんお手製のドリンク剤を飲み干し、伊良湖さんお手製の総合栄養食なブロックバーを咥え喰らいながら、終わりなき演奏を続ける。

 トライ! アンド、テスト!

 トライ! アンド、テスト!

 サーチ! アンド、デストロイ!

 …もとい
 トライ! アンド、テスト!

 空になったドリンク剤のビンがそこら中に転がり、ブロックバーの箱が至る所に散乱している。
 演奏をしては栄養補給をして、そしてまた演奏をする。
 あまりにも凄まじい鬼気迫る勢いの演奏は、休みなく続けられている。
 演奏している四人は、全身がびっしょりになるほどの汗をかいている。
 身体中の水分が汗になって流れ出て、もはやトイレに行く必要がないほどである。
 実際、もう何時間も演奏し続けているのに、誰もトイレに行こうとはしない。
 そんなどろどろの極限状態になっても、四人は演奏を続ける。
 ゴールがいまだ見えない演奏は、いつまででも続いていく。


 ピッキィィィィィィンッ――


 四人はハッとする。
 四人の頭の中で何かが走り抜けた。
 四人は仕切りなおすように楽器を構え直し、静かに息を吸いながら目を閉じた。

「これ、ラストになるな。ぜってぇ」

「そうねぇ、そういう予感を感じたわねぇ」

「パンパカパーン! 遂にここまで来たって感じだわ」

 榛名は目を閉じてゆっくりと息を吸い込み、三人に向かって話す。

「みんながいま感じているとおり、きっとこれがラストになります。だから、この演奏に全てを注ぎ込んでくださいね。みんなの全部を」


 そして最後の演奏が始まった――


 その演奏は今までの集大成とも言える、最高の演奏であった。
 数えきれないほどの演奏を繰り返し、そのたびにトライアンドテストをし、アレンジと改良を加え、そして遂に完成した。


 最後の演奏が終わる――


 演奏が終わると同時に、四人は事切れたかのようにその場に倒れ込んだ。
 もはや立っていることすら出来ない。
 それほどまでに四人はすべてを出しきったのである。
 いつの間にか夜は明けていて、日が昇り始めていた。
 夜戦は終わったのだ。

「無事、帰投だな。よく頑張ってくた」

 いつの間に現れたのか、倒れ込んでいる四人の前に提督がたたずんでいた。

「これ……マスターテープです……」

 もう声を出すのも限界といった榛名はぷるぷると震える手で、最後の演奏を録音したマスターテープを提督に差し出した。

「確かに預かったぞ」

 提督は榛名の傍らで膝をつき、マスターテープを受け取った。
 榛名はニコッと笑うと、そこで力尽きてしまい、バタッと突っ伏してしまう。
 そしてそのまま死んだように眠ってしまった。
 他の三人も死人のように眠ってしまっている。

 撃沈!

「お疲れさま。今はとにかく休んでくれ。あとで打ち上げしような」

 提督は四人に毛布を掛け、スタジオを後にした。

 ――――

 ――

 ―

『これが今回の成果物の音データとなります。現物のテープはすぐにそちらへお送りいたしますので』

『うむ、ご苦労であった』

 通信室にいる提督は、マスターテープに録音された榛名達の演奏を流している。

『毎回素晴らしい曲を作り上げてくれるな。優秀な部下を持ったものだ』

『彼女らにお褒めの言葉をいただいたと伝えておきます』

『そうだ、君に聞きたいことがあったのだ』

『ッ? なんでしょう?』

『いつもテープと一緒に同封されているメッセ―ジカード……これは何かね』

『すみまえん、出すぎた真似をして……しかし、そのくらい彼女らも頑張ってくれたので』

『……うむ、私の質問に答えているようには聞こえないのだが……とりあえず、あいわかった』

 通信が切れる。
 提督はマスターテープを大きな茶封筒に入れ、そして一緒にメッセージカードを同封した。

“あたしらの音を聞けぇぇえッ!”

 こうして艦これのBGMは作られているのである。
 ……かどうかは不明である。


(任務完了)

目次はコチラ


【艦これ】くちくズ
第04話 任務:46センチ三連装砲を撃てぇ!



 ここは某国、某県、某市、某港にある、とある鎮守府。
 この物語は艦娘と深海棲艦との凄まじいまでの激戦の記録……ではない。
 戦闘さえなければ、艦娘達も普通のお年頃な女の子。
 今日も提督と艦娘達によるほのぼのとした一日が始まる。

 ぽかぽか陽気な昼下がり。
 食堂で昼食を食べている雷、電、まるゆ。

「あ、長門さんに陸奥さんなのです」

 演習を終えて母港に戻ってきた長門と陸奥は、少し遅めの昼食を食べにきた。

「すっげぇなぁ。あれって呉海軍工廠砲熕部が極秘開発した、世界最大最強の戦艦主砲なんだろ?」

 雷は長門と陸奥に搭載されている46センチ三連装砲を眺めている。

「艦船に搭載された世界最大の艦砲としてギネスにのっているのです」

「最大射程は40キロを超えるそうです。ちょっとした日帰り旅行な距離ですね」

 雷電ゆの3人は目をきらきらさせて46センチ三連装砲に見入っている。

「私らが搭載できるのは小口径主砲の12.7センチ連装砲だもんなぁ。3.6倍以上もデカいんだぜ。あれは反則だよな、あれは」
「火力なんて13倍もの差があるのです。大口径主砲の本気を見るのです!」

「まるゆは装備スロットが存在しないので、武器とは無縁なんです。うらやましいなー。かっこいいなー」

 羨望のまなざしで46センチ三連装砲を見つめる雷電ゆの3人。
 そんな憧れの46センチ三連装砲が近づいてくる。

「撃ってみるか?」

 いつの間にか目の前に長門がいて、驚きのあまり跳び上がる雷電ゆ。

「ええ!?」

 憧れの主砲、46センチ三連装砲を撃ってみるかと聞かれ、目をぎらんぎらんに輝かせる雷電ゆ。

「ええ!?」

 ちょ、マジ!? な顔をする陸奥。

「ちょっと! 姉さんったらもう、いきなりそんなエキセントリックなこと言って。そもそも駆逐ちゃんには装備できないでしょ?」
「いーえ! 3人の力を合わせれば可能なのです!」

 電は陸奥にずずぃと詰め寄り、迫力のある目で陸奥を見つめる。
 ぎんぎらに目を輝かせながら鼻息を荒くしている電は、本気すぎて引いてしまうほどに目が本気である。
 他のふたりも目が撃ちたいと言っている。

「ダメよぉ、ダメダメ! 危ないからダぁメぇッ」

 陸奥は雷電ゆ以上に迫力のある目力を発揮して、3人を見つめ返す。
 そんな陸奥の気持ちを踏みにじるように、長門は雷電ゆを見下ろしながら3人に提案する。

「ここで46砲を撃ったら間宮に殺される。場所を変えよう」

「はーい!」

 長門と雷電ゆはさっさと食堂を出て行ってしまう。
 ひとりポツンと食堂に取り残される陸奥。
 陸奥は頭に大きな怒りマークを出現させ、わなわなと肩を震わせる。

「ダメよぉ、ダメダメ! ダメよぉぉ、ダメダメッ!! ダメったら、ダぁぁぁメぇぇぇッ!!!」

 陸奥はぷんすか怒りながら4人を追った。

 ――――――

 ――――

 ――

「ここならいいだろう」

 長門と雷電ゆは海に面しているコンテナ置き場までやってきた。

「いいだろう、じゃないわよ!」

 少し遅れてぷんぷんな陸奥が追いついてきた。

「姉さん、それに雷電ゆちゃん達、46センチ三連装砲なんて大口径主砲、くちくズな3人には持てないでしょう?」

 雷電ゆの3人は長門が装備している46センチ三連装砲を見つめながら、額に汗を垂らす。

「大丈夫なのです! さっきも言いましたが、3人の力を合わせれば可能なのです!」

 そう言って雷電ゆの3人は手をつなぎ、そして口を揃えて叫び上げる。

「合体だ!」

「ええ!?」

 ちょ、マジ!? な顔をする陸奥。
 そんな困惑する陸奥を尻目に、3人は飛び上がってガシーン! ガキーン! と合体する。

「2艦1艇合体! 雷電ゆ!」

 3人の背後で“ちゅどーん”という爆発が起こりそうなシチュエーションだが、辺りはシーンとした涼やかな静寂に包まれる。

「……合体? なの? これ?」

 陸奥は目を点にして3人を見つめる。
 雷電ゆの3人は雷を先頭にして、電は雷の肩を背後から掴み、電の肩をまるゆが掴んでいる。
 これはどう見ても、肩を掴む前ならえである。

「見事だ」

 長門はうんうんと頷きながら、ぱちぱちと拍手をする。

「なにこれ……」

 縦に並んでいる雷電ゆ、それを見て拍手をする長門。
 もう何が何だかな状態である。
 状況が把握でいない陸奥は口角をひくひくさせながら、ピキッと固まってしまう。
 そんな陸奥を尻目に、長門は合体したと言い張る雷電ゆの上に46センチ三連装砲を置いた。

“ずしんッ”

 物凄く重い。
 あまりにも重くて、雷電ゆの足が地面にめりこみそうになる。
 予想以上の重さに目をまんまるにする雷電ゆは、全身をぷるぷるさせながら顔じゅうを汗だらけにしている。
 そんな雷電ゆを尻目に、長門はスッと海を指差し、無言のまま撃てと言っている。

「ちょっとぉ! ダメったらダメぇ! そんなことしたら……」

 陸奥が言い終えるのを待たずに、雷電ゆは叫び上げる。

「雷電ゆ! 撃っちまぁぁぁぁぁすぅッ!」

“ずどごぉぉぉぉぉぉぉぉんッ!”

 物凄い爆音と共に、雷電ゆは後方におもいっきり吹き飛ばされてしまう。
 とはいえ、一番前にいた雷と、真中にいた電は、なんとかその場に踏みとどまった。

「ひゃあああああぁぁぁぅんッ」

 しかし一番後ろにいたまるゆはもろに46砲の反動を受けてしまい、コンテナ置き場に向かって飛んで行ってしまった。

“どんがらがしゃーん”

 まるゆはコンテナ置き場に放り出され、積まれていたコンテナがどんがらと音をたてて崩れてしまう。

「ま、まるゆちゃーんッ!」

 陸奥は慌ててコンテナ置き場に向かって駆け出す。

“びゅごおおおぉぉぉんッ………………きらんッ”

 そして支えを失った46センチ三連装砲は砲撃の反動で飛んで行ってしまい、そのままお空の星になってしまった。
 長門は空を眺めながら、お星様になった46センチ三連装砲を見つめる。

「……飛んだな」

「飛んだなじゃないでしょーッ!」

 陸奥は崩れたコンテナを投げ飛ばしながら、長門につっこみを入れる。

「見つけたッ! まるゆちゃんッ!」

 まるゆはコンテナの瓦礫の中から逆さまになって発見された。
 まるでスケキヨの死姿のような様相のまるゆ。
 陸奥はまるゆの足を掴んで、ずぼっと引っこ抜いた。

「かろうじて轟沈しなかったわね」

 まるゆはきゅううと目をまわし、大破している。
 ちなみに雷と電はその場でへたり込み、やはり目をまわして中破している。
 46センチ三連装砲を試射しただけなのに、ズタズタのボロボロな3人。

「あら、あらあら……46センチ三連装砲は反動が凄いから危ないって、言おうとしたのに……」

 陸奥は残念な溜息をつきながら、周囲を見渡して困り顔になる。
 そして長門は空に向かって涙を流しながら敬礼している。

「姉さん! そんなとこで泣いてないで、手伝ってよ!」

 陸奥と長門はボロボロな3人を抱えてドッグに向かった。

 ――――――

 ――――

 ――

「ぶわっかもぉぉぉぉぉぉぉんッ!」

 昭和の頑固オヤジのような怒号が司令官室中に響き渡る。
 陸奥と長門、そして修復が完了した雷電ゆの3人は、司令官室に呼び出された。

「無断で46センチ三連装砲を試射! その結果、雷電ゆが中破および大破! コンテナ置き場が小破! 46センチ三連装砲を紛失! 何を考えとるんだ、お前たち!」

 叱られて当然である。
 ごめんなさいで済むような簡単な話ではない。
 陸奥はこういう結果になるのがわかっていながらも、長門とくちくズを止められなかったことに責任を感じ、るーっと涙を流しながらお叱りを受けている。

「まったく! 3人が助かったからよかったものの、こんなことで轟沈なんてしたら泣くに泣けないぞ、まったく!」

 頭から湯気を上げながら憤慨する提督を尻目に、長門は雷電ゆに向かってグッと親指を立ててみせる。
 そして雷電ゆの3人も長門に向かってグッと親指を立てる。
 長門と雷電ゆの目がキランッと清々しく輝く。

「ぬぅぅぅぁぁがぁぁぁぁぁとぅぉぉぉぉぉッ! くぅぅぅぅぅちぃぃくぅぅぅぅぅズぅぅぅぉぉぉッッッ! おン前ぇらぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 提督の怒りが更にヒートアップしてしまい、陸奥は、るーーーーーーっと大量の涙を流してお叱りを受ける。

 この日以来、雷電ゆの3人と長門は、なんとなく仲良くなった。

(任務達成?)

目次はコチラ

【艦これ】くちくズ
第03話 任務:電、深海棲艦駆逐イ級を育てよ!



 ここは某国、某県、某市、某港にある、とある鎮守府。
 この物語は艦娘と深海棲艦との凄まじいまでの激戦の記録……ではない。
 戦闘さえなければ、艦娘達も普通のお年頃な女の子。
 今日も提督と艦娘達によるほのぼのとした一日が始まる。

 ぽかぽか陽気な昼下がり。
 お昼ごはんを食べたばかりな雷と電は満腹気分に浸りながら、ベッドの上でごろごろしている。

“イキューン”

 どこからか生き物の鳴き声が聞こえた。

「??……気のせいか?」

 雷はいぶかしげな顔をするも、気を取り直してンーッと伸びをする。

“イキューン”

 雷はバッと身体を起こす。
 何かいる! そう思った雷は周囲をきょろきょろと見渡す。
 すると、そろそろ足でクローゼットに向かう電を見つけた。
 雷は妙な行動をとる電の様子を観察すべく、黙って電を見つめる。

「ぬき足、さし足、しのび足……なのです」

 そうつぶやきながら、物音をたてずに気配を消して歩く電。
 しかし声を出しながら歩いている時点でバレバレである。
 なんともはや、ひどく残念な感じになっている電。
 とっくに雷にバレているとも知らずに、電はクローゼットの前にまでやってきた。
 そして、そぉっと扉を開ける。

「イキュちゃん、シーッ、なのです……雷お姉ちゃんに見つかってしまうのです……」

「ほぉーッ、声の主はイキュちゃんっていうのかぁ」

 突然背後から雷の声が聞こえて、電はビクッと飛び跳ねる。
 クローゼットの奥の方に、ダンボール箱に入った生き物が見える。

「だ、ダメなのですッ! 何もいないのですッ!」

「何がダメなんだ? 何かいるから何もいないって言うんだろ?」

 クローゼットの前で立ちふさがる電を押しのけ、雷はクローゼットに首を突っ込んでダンボール箱の中身を覗き込む。

「……え? 何だこいつ……って、ぅうわあああぁぁぁッ!」

 雷はずざぁと素早く後ずさり、クローゼットにいる生き物に向かって12.7センチ連装砲を構える。

「だ、ダメなのですッ!」

 電はとっさにダンボール箱にいる生き物を抱きかかえ、素早くその場を離脱した。

「電ッ! お前、それ、深海棲艦の駆逐イ級じゃねーか!」

 電はぎゅうと駆逐イ級を抱き締めながら、雷から守るように自分の身を盾にする。

「確かに深海棲艦なのです……なのです……でも、この子は……大丈夫なのです……」

 電は声を震わせ、涙目になって駆逐イ級をかばう。

「何考えてんだよ、バカ電ッ! 深海棲艦は敵だぞ! 私らはそいつらと戦うために、この鎮守府にいるんだぞ!」

「……そ、それでも……この子は大丈夫なのです! この子は大丈夫……大丈夫なのです……」

 電は駆逐イ級を抱きかかえながら泣き出してしまう。

“イキューン”

 そんな電の様子を知ってか知らないでか、駆逐イ級は無邪気に電の頬をぺろぺろする。

「イキュちゃん……くすぐったいのです……」

 はた目から見ると、まるで子犬と戯れるいたいけな少女であるが、実際には駆逐イ級を抱きかかえる艦娘である。
 とはいえ、駆逐イ級は電にとても懐いていて、危害を加えるような様子もなく素振りもない。
 倒すべき敵を抱きかかえる妹……あまりにもシュールな状況に雷は困惑する。

「……電……まさかとは思うけど……そいつをどうする気だ?」

 嫌な予感がしつつも、雷は電に質問をする。

「飼うのです!」

 嫌な予感が的中してしまい、雷は大きく溜息をついた。

「電……それは無理だな……絶対に無理だって……お前、内緒でそいつを飼う気か?」

 電は雷をまっすぐに見つめながらウンと頷いた。

「でもなぁ、私にバレちゃった時点で、もう内緒にしておけないぞ? さすがにこれは……黙っておけないって」

 雷は複雑な気持ちになりつつ、電を諭すように話す。

「なら……提督に言ってみるです……」

「言ってみるって、提督にか?! 深海棲艦を飼いたいですって? 無理だって絶対に」

「言ってみないとわからないのですッ!」

 電は部屋の扉をバァンと押し開け、イキュを抱きながら駈け出した。
 雷は溜息をついて、ぽそっとつぶやく。

「まったく、大人しいくせに頑固なんだよなー、電は」

 ――――――

 ――――

 ――

「ダメだ! うちでは飼えないぞ!」

 提督に怒鳴られてしまい、電はビクンと身をすくめる。

「電、深海棲艦はイヌやネコとは違うんだぞ? 生態調査という意味で捕獲するのであればともかく」

「なら、生態調査ということで飼うのですッ!」

「だから飼えないって……それに生態調査となれば、様々な調査、実験をされた末に、最終的には解剖されてしまうだろう」

 電はイキュをぎゅうと抱き締めて提督を睨みつける。
 提督は溜息をつきながら困り顔になっている。
 そんなふたりのやり取りを見ていた秘書艦である陸奥は、にっこりと笑みながら46センチ三連装砲を撫でる。

「この子、この場で沈めちゃいましょう」

 46センチ三連装砲の砲口をイキュに向ける陸奥。

「うわぁーんッ! ダメなのですッ!」

 電は大泣きして司令官室を飛び出して行ってしまう。

「陸奥……脅かしすぎだ」

「だって、飼えないのは本当でしょ?」

「それはそうだが……あれで諦めてくれるだろうか」

 提督はやれやれと大きく溜息をつきながら、後味が悪そうに苦笑いしている。

 ――――――

 ――――

 ――

 海辺のコンテナ置き場は人の出入りが極端に少ない。
 電はきょろきょろと辺りを見渡しながら、コンテナ置き場の奥の方へと入っていく。
 そこには子供の手作り感たっぷりな小屋が建てられている。
 そして中にはボロ毛布にくるまっている駆逐イ級がいる。

「イキュちゃん、ごはんを持ってきたのです」

 電の声が聞こえたイキュは、イキューンと鳴いて小屋から顔を出す。
 電がアルミ製のボウルに燃料を注ぐと、イキュは嬉しそうにぺろぺろと舐め飲む。
 そんなイキュを見て電はほっこりとした笑顔を浮かべ、イキュの頭を優しく撫でる。

「イキュちゃん、また来るのです。ここで大人しくしてるのです」

“イキューン”

 電は後ろ髪を引かれながらも、きょろきょろと辺りを見ながらコンテナ置き場を後にする。

「やっぱりなぁ、電のやつ……しょうがねーなぁ」

 コンテナの上で腕組みしている雷は、やれやれな顔をしながら電を見下ろしている。

「このまま何も起きなきゃいいけどなぁ」

 雷はぴょこんとコンテナから飛び降りる。
 そして困ったように頭を掻きながら、電に見つからないように自室に向かう。

 ――――――

 ――――

 ――

 こっそりとイキュを飼いだした電は、自分に配給された燃料を密かに持ち帰り、イキュのごはんにしていた。
 そして毎日3食、欠かさずにイキュにごはんをあげている。
 例え雨が降ろうとも、例え遠征後の疲労度マックス状態であっても、例え出撃後の大破状態であっても、イキュへのごはんは欠かさなかった。
 そんな電を影から見守る雷。
 このまま秘密を守り通し、いつまでもイキュを飼い続けていく……なんてことは不可能である。
 こういった秘密は、ふとしたことで見つかってしまうものである。
 案の定、その日は来てしまった。

「イキュ、ごはんなのです」

 お昼ごはんの燃料を持ってきた電は、小屋に向かって声を掛ける。
 いつもならイキューンと鳴いてひょっこりと顔を出すイキュなのだが、鳴き声も無ければ顔も出さない。
 不審に思った電は小屋に頭を突っ込む。

「あれ? イキュちゃん?」

 そこにイキュの姿が無かった。
 いつもは毛布にくるまって大人しくしているイキュなのだが、どういうわけかイキュがいない。

「い、イキュちゃん!」

 電は慌ててイキュを探しだす。

「イキュちゃーん! イキュちゃん、どこなのです!?」

 必死になってイキュの名を呼んで探す電。
 そんな電を止めるように雷は電の肩を掴む。

「バカ電ッ! 名前なんか呼んだらみんなにバレちゃうだろ?!」

 電はハッとなって口をつぐんだ。

「雷お姉ちゃん!? なんでここに? どうしてなのです?」

 イキュを飼うことに反対していた雷が電を味方してくれて、電は不思議そうに雷を見つめる。

「今はそんなことどーでもいいだろ! んなことよりイキュを探すぞ! イキュが誰かに見つかったらシャレにならない」

 電はウンと頷いてイキュを探す。

「コンテナ置き場にはいなそうだな。もしかするとドッグの方に行ったのかもしれない」

 雷はドッグに向かって走り出す。
 電は雷を追いかけるように雷のあとをついていく。

「雷お姉ちゃん、ありがとうなのです」

「はぁ? 何か言ったか?」

「本当は聞こえているくせに。雷お姉ちゃん、ありがとうなのです」

 もうすぐドッグに着くというところで、ドッグから騒がしい声が聞こえた。

「敵だわ! 深海棲艦がいるわ!」

「敵のスパイか? 絶対に逃がすな!」

 遅かった……そう思った雷と電は息を切らせながらドッグに入る。

“イキューン”

 イキュが艦娘達に取り囲まれている。
 イキュは必死に逃げようとするが、完全に囲まれてしまって逃げ場がない。

「五十鈴にまかせて」

 五十鈴は20.3センチ連装砲をイキュに向ける。

「ダメなのですぅッ!」

 電は体当たりして五十鈴を突き飛ばした。

「いったぁい! お尻を打っちゃったじゃない! 何するのよ、もう!」

 電は素早くイキュを抱きかかえ、その場から逃げだす。

「ちょ、ちょっと待ちなさい! どこ連れていくのよ!」

 艦娘たちが一斉に電を追いかける。
 いくら足の速い駆逐艦とはいえ、イキュを抱いたままでは逃げきれない。

「おっと、ごめんなぁ」

 雷は機械油の入ったドラム缶を蹴り倒した。
 艦娘達は地面にまかれた油に足をとられ、つるんつるんと転んでじたばたする。
 立つこともままならない艦娘達は、くんづほぐれつの大参事である。
 その場から動けないでいる艦娘達を確認し、雷は電を追いかける。

「おーい! 電ッ!」

 ドッグの外に出ると、電はイキュを抱きながら海の前で立ち尽くしていた。

「う、うぉおッ! ま、マジかよ!」

 雷は驚きの声を上げる。
 電の目の前には巨体の深海棲艦、駆逐ニ級が横たわっている。
 雷はとっさに12.7センチ連装砲をに駆逐ニ級向ける。

「雷お姉ちゃん、違うのですッ!」

 電に呼び止められ、雷は動きを止める。

「あなたは……イキュちゃんのお母さんなのですね?」

“ニキューン”

 駆逐ニ級は電に答えるように、低い鳴き声を上げる。

“イキューン! イキューン! イキューン!”

 電に抱かれていたイキュは激しく鳴きだし、電の胸から飛び降りる。

「あ、イキュちゃんッ」

 イキュは駆逐ニ級に走り寄る。
 電はとっさにイキュを追いかけようとしたが、足を動かすことができなかった。
 母親の元に戻ろうとするイキュを止めることなど、電にはできない。
 電は唇を噛みしめながら、流れ落ちようとする涙を必死にこらえる。

「電……」

 肩を震わせながら、何かに耐えている電。
 しかし雷にはどうすることもできない。
 電とイキュを見守ることしかできない。

“イキューーーン!”

 イキュは電に向かって長い鳴き声をあげた。
 まるでさよならを言っているかのようである。
 そんなイキュに向かって、電はにっこりと笑顔を見せる。

「よかったのです、イキュちゃん。お母さんと会えて」

“イキューーーン”

“ニキューーーン”

 イキュと駆逐ニ級はどぼぉんと海に飛び込んだ。

「電……」

 海に向かって笑顔を向けながら立ち尽くしている電。
 その頬には、いくすじもの涙道が通っている。

「ばいばーい! イキュちゃーん! 元気でねー、ですー! ……うわあああぁぁぁんッ!」

 遂に泣き出してしまう電。
 そんな電の頭を雷は優しく撫でてやる。

 ――――――

 ――――

 ――

 ひとしきり泣いた電は、落ち着きを取り戻して海を見つめている。

「もしかしてイキュのやつ、大きくなったら私らと戦うことになるかもだぞ?」

「そのときは全力で闘うのです」

「そっか、お前って変に強ぇーのな」


(任務達成)

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